パレット~夏の回想録
子供たちが夏休み中、約一週間は実家のある故郷八戸へ、避暑も兼ねてお盆帰省するのが我が家の毎年の恒例行事でした。
八戸の観光スポットの一つに、天然芝生の美しい『種差海岸(たねさしかいがん)』があり、必ずそこを訪れて、ほんのひととき都会の喧騒から遠ざかり、目の前に広がった緑の芝を闊歩し、太平洋と大空を見渡しながら故郷の潮風を満喫するのが年に一度の楽しみで、お盆先祖供養は二の次という感じ。
水平線を目指して、両手を広げて走ってゆく亡き娘の後ろ姿は、ずっと心に焼き付いています。
「ゆうちゃんは、八戸が大好きだっただろ?」(主人)
「あいつ、あそこへ行くと一日中ゴロゴロしていても文句言われないって、楽しみにしてた」(長女)
娘が自ら死を選択した日から、ほぼ半年後の2017年夏。
両家並べて既に購入していた墓地のある八戸の霊園へ、亡き娘の納骨を決心したのは、主人と長女の上記の言葉を聞いてからでした。
それまでは、私か主人が亡くなるまで、さいたま市の自宅で手元供養しようと考えていたんですけどね。
確かにあの子は八戸が好きでした。
田舎ならではの、ゆったりとした時間の流れが性に合っていたのだなと、今さらながらに思います。
遺書には「疲れてしまって」という一文もありました。
当時のクラス担任とのやりとり日誌の中では、「部活の顧問との戦いに勝ったら、どこか遠くて凍死したい」みたいなことも書いてありました。
凍死=冷たい、寒い地域のイメージ、八戸はぴったりじゃないか、と。
供養の仕方は、今では多様化しており、ひと昔前ほど『こうしなければならない』とか『それでは成仏できない』など、宗教上のシキタリを重んじた忠告を受けるような場面は少ないのではないのかな、と、私は思うのですが、どうなんでしょう。
(まだあるんでしょうか?)
あとはご遺族の気持ち重視で、様々な問題との折り合いをつけながら進めていけるのではないのかなと。
かえって家族の間で意見が分かれるのが面倒かもしれません。
うちは私だけが手元供養希望、主人と長女は故郷のお墓へ納骨したほうが良いと、はじめは意見が分かれていたので(^_^;)。
結局、事後半年後の初盆で納骨式を執り行うことに決まり、さいたま自宅から八戸まで、新幹線の中もずっと亡き娘のお骨を主人と交代で抱いて帰省しました。
楽しいだけだったお盆帰省が一変。
腕に残る遺骨の重み、周囲から浮いた悲愴感、絶望的な心境に追い打ちをかける2017冷夏。
「なんでこんなことまでしなきゃならなかったんだろう」と、一緒に新幹線で帰省した長女の言葉も忘れません。
「親や自分をこんな悲しいめに遭わせるなんて……!」という怒りもかなり強かったのだろうと思います。
が、母親の私としては、とにかく信じられない気持ちがまだまだ強く、なんの罰ゲームでこんな重たい荷物を持たされているのか? 次女はどこへ行ったのか? 先に故郷へ帰っているのか?
……気持ちがついて行けないのです。
――お盆には、故人の霊が帰って来るという
――あの子が故人?
帰省中、八戸は連日雨か霧雨。
それでもあの種差海岸へ意地でも向かいました。
生前最後の夏休みを追う作業を家族三人で言葉少なに決行。
でも、(当たり前ですが)亡き娘はどこにも居ません。
そして納骨式。
地域によって風習が違うのだとも思いますが、納骨式では、用意された大きい風呂敷の端を親族たちで持って広げ、そこに骨壺からお骨をバラバラと出します。
そこから喪主をはじめ順番に、直接素手でお骨を拾い、お墓へと入れていくのですが、さいたま市内での納骨式では骨壺のままお墓へ入れるというのを聞いていたので、正直、考えてもみなかったこのシキタリにギョッとしました。
怖いというより、はやり信じられないという気持ちが大きく、他人事のように淡々と法要をこなしていたように記憶しています。
でないと、正気ではいられない心理状態だったのでしょうね。
それにしても………、よくやったな自分、と、今は恐々しながらも懐かしく思い出せるようにまでなりました。
🎨『パレット』イラスト/ポピー(アナログパステル画&デジタル編集)
書籍『未来へのメッセージ ~明日を生きる君に贈る100のメッセージ~』
私の娘たちの幼い頃をイメージして作画した2015年の作品を久々に眺めていて思いました。
自由にのびのび育ててきたつもりでも、親が描いたシャボン玉の型に閉じ込めて、私の一存だけで膨らませた儚い人生の暗示が、このイラストだったのかな…と。
皮肉と自責を込めて客観視(検証)してみました。
二年後の2017年に次女の自死、それからさらに四年目の夏が来ましたが、イラストに魂を吹き込んでくださった某クリエイターさんの詩文も、今では物悲しいです。
『パレット』
ひとつひとつ
君にしかわからない
光を放つ あの日の種は
君の笑顔に逢いたくて
青い星の母なる大地
頼りなげに揺れ
倒れないように
今日も根を張る
巡る季節
降り注ぐ陽射し
目を細め
白い歯をのぞかせる
夏の午後
陽に焼けた肩が輝く
君はナニにも属さない
地球の一部
手探りで
手繰り寄せる明日
麦わら帽子が飛ばされても
君は見つめていた
燃え始めた空を
そしてまた
明日を手繰り寄せる
未来の花束を
アレンジするのは
君にしか出来ない
不思議なイマージュ
(詩文/M.W.)
亡き娘がこの世でやりたかっことを心で感じとりながら、パレットを手にとって一緒に描けたら、それが一番の供養になるように本気で思えてきた、四年目の夏です。
◆自死遺族の集い◆
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