洋上の月に問う影絵
私が小学一年生の頃、体育館に全校生徒が集められ影絵人形劇を鑑賞したのですが、そのときの劇が『赤い蝋燭と人魚』/(小川未明著の創作童話)でした。
ご存じの方もいますでしょうか。
子供ごころに、なんて悲しくて怖いお話なのだろう、なぜ学校の先生たちはこんなお話を子供に見せるのだろうと、妙に焼き付けられたほど、おどろおどろしい雰囲気の漂うお話でした。
人間の世界に憧れを抱いていた人魚が、海辺の町に住む優しそうな老夫婦を見かけて、自分が産んだ赤子を託します。
その女の子はすくすく育ちましたが、自分の姿が他の子たちとは違うことに気づいてから家に隠るようになりました。
老夫婦は貧しいながらも仲良く蝋燭屋を営んでおりましたので、家に籠ったその子はせめてもの恩返しにと、蝋燭に美しい絵を描くようになりました。
その美しい蝋燭は瞬く間に評判になり、しかも『これを灯せば嵐が止む』という不思議な力もありましたので、海辺の町の民にはよく売れたのです。
女の子は休む暇もなく、描いても描いても蝋燭は飛ぶように売れ、ついには、この子の噂まで遠い異国の地へ響き渡りました。
そして………、ある日、噂を聞きつけた香具師が家にやってきて、かつて獣を入れて見世物にしていた折にその子を閉じ込め、老夫婦から高額で買い取っていったのでした。
信じた人間に裏切られた母人魚の悲しみと怨念が、海辺の町にもたらした災い、恐ろしい結末がその後…。
人間社会への風刺を含んだ悲劇の童話ですね。
この影絵劇との出会いから数十年経ち、結婚して子をもうけ、絵本を読み聞かせたことはたくさんありましたが、『赤い蝋燭と人魚』だけは口頭だけで娘たちに語り伝えていました。
いや、口頭だけでもイメージを膨らませて聞かせられるほどに、鮮明に私の記憶に残っていたわけですね。
娘たちも、私が身ぶり手ぶりで熱く語る物語に影響を受けたのでしょう。
大学生になった長女が、私の誕生日に買ってプレゼントしてくれたのが、絵本版『赤い蝋燭と人魚』でした。
文/小川未明 絵/酒井駒子
亡き娘(次女)はあらためてこれを読み、学校の親子で推薦本(母から子へ、子から母へ)という企画で、このお話をとりあげてくれたので、何倍にも思い出の詰まった絵本になりました。
絵本の中の、母人魚の悲しみや憤りとは背景も違うのですけれど、事後からは読み返すことも多いです。
悲しい、母と娘の物語。
私の心にそっと寄り添って、深い暗い海の底へ降りて行き、一緒に悲しんでくれるお話。
ときには一緒に水面に浮上して、洋上の月を眺めて問うてみたり。
【みんなでつくる下町絵本展HP】
主催:浄土真宗 厳念寺様
『星のしずく』でアートワーク講師をしてくださっている保坂三智子さんからのご縁繋ぎで、『みんなでつくる下町絵本展』というイベントへ、僭越ながら絵本を二点推薦させていただきました(^-^)。
ご縁のある方々に『子どもの頃に心に残っている絵本』と『いま大切な人に届けたい絵本』の2冊をその理由と共に教えて頂き、その数が100冊(50人)に達したときに厳念寺で絵本展を開催するという催しです。
(フライヤーから引用)
私が推薦投稿したのは、
『赤い蝋燭と人魚』/小川未明著、絵/酒井駒子
『もしものせかい』/ヨシタケシンスケ作
後者は、Amebaのブロガーさん方(blue gerberaさん、まるちゃんさん、あゆともさん、⭐桜さん)がレビュー記事を書いていたことで、私も手にすることができた絵本です。
ありがとうございました。
コロナ禍が落ち着いてきて、いつか浅草でこの絵本展が開催される日を心待ちにしている私です。
閲覧してくださった皆様の思い出深い絵本、今大切な人に届けたい絵本はありますか( ^∀^)?
選ぶのに困るくらい、たくさんありそうですね。
◆自死遺族の集い
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